その1 文法中枢とは h3mインタビュー酒井邦嘉 of h3m

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デジタル時代の人やモノの距離感 ブログよりもややフォーマル、原稿にするには個人的なこと

「21世紀の距離感 文法中枢」h3mインタビュー 言語脳科学者 酒井邦嘉 1/全4回

近年増え続けるデジタル・コミュニケーション。最先端の言語脳科学と「21世紀の距離感」について、言語脳科学者の酒井邦嘉先生にお話をお聞きしました。


酒井邦嘉(さかい くによし)1964年、東京生まれ。1987年、東京大学理学部物理学科卒業。1992年、同大大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。1995年、ハーバード大学医学部にリサーチフェローとして留学。1996年MIT(マサチューセッツ工科大学)で言語・哲学科客員研究員を経て、現在は東京大学大学院総合文化研究科准教授。『言語の脳科学』(中公新書)で第56回毎日出版文化賞受賞。他に『科学者という仕事』(中公新書)、『脳の言語地図』(明治書院)など著書多数。

h3m:まず最初に、酒井先生が脳の中に発見した「文法中枢」について教えてください。

酒井:言語の研究を始めたときの目標として、漠然と言葉を対象にするのではなく、「言語で何が核心的に働いているのか」を見つけたかった。言語にエンジンがあるとしたら、何が本当にエンジンなのか。言語学においては、「それはおそらく文法ではないか」とすでに提案がされていました。それは学校で習うような文法ではなく、最低限の言語の規則を集めた体系であり、言語全体を支える骨格となりうる文法です。普段は、言語の骨に身がついた状態しか目にできません。しかし、身をそぎ落としたときには、きっと骨のような構造があるはずです。それが人間の言語を支えているなら、必ずそれが脳に見つかるはずだと考えて、それだけを取り出すようにデザインされたfMRI(機能的磁気共鳴映像法)などの実験をしています。

文法に着目して実験をすればするほど、脳の一部分、正確に言えば2カ所ですが、文法処理に関連した活動がはっきりと見えるようになってきました。日本語以外でも、あらゆる言語でも活動を見ることができます。実験の条件を厳しくするほど、その部分の活動の意味が明らかになってきています。それは、人間の脳の左側の前頭葉、古くから「ブローカ野」と呼ばれていた場所にあり、おそらくそれが人間の言語を支える文法の中枢だろうと考えて、「文法中枢」と名付けました。まだこの研究は完成したわけではありません。仮説を立てて、その場所の機能をもっとくわしく見てみると、さらに面白いことがわかるかもしれない。そんなことを期待しているところです。

h3m:測定に使っているfMRIで多くの人の文法中枢を見たとき、どんなことがわかりますか?

酒井:母語以外の言葉、たとえば日本人が英語を習っているとき、習いたての人達と習ってしばらく経った人達を比較した結果、その人の英語に対する適性や、どのくらい文法が自然につかわれているかどうかが読み取れるようになってきました。習いたての人は文法中枢があまり働きません。しかし、英語を習うにつれて文法がうまく使えるようなってくると文法中枢の活動が増えてきます。ところが、脳の活動というのは無限に増えてはいきません。そして、英語にだんだん慣れてくると、我々が日本語を話すときのように、ほとんど脳がエネルギーを使わなくなって、ネイティブのように英語がすぐに出てくるのです。そうすると逆に脳の活動が減っていきます。文法中枢の活動が増える時期から減る時期に移行する期間は、だいたい6年ほどでした。

6年というと、中学1年生が高校を卒業するくらいの期間、小学一年生ならば小学校を卒業する期間に相当します。個人差があったり、英語に得意、不得意があったとしても、それくらいの間に外国語の文法が脳に定着してくることがわかってきました。

文法中枢を調べて、個人差の原因がさらにわかるようになるでしょう。こうした研究が進んでいったら、学校でテストしなくても、fMRIの中に入るだけで「あなたは合格」とか、「もうちょっと勉強しましょう」とかわかる時代がくるかもしれません(笑)。

LinkIcon酒井邦嘉インタビュー その2「21世紀の距離感」とは

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