カードキューブ
トランプはデザインとして優れていることが多い。そのうえ、運命や駆け引きのゲームなどに使われる、人間の欲望の香りが少しするアイテム。だからこそ、ファンションデザイナーは、ときどきトランプのモチーフを作品に使う。
僕はマジックが終わった後に、使ったトランプをそのまま観客の1人にプレゼントすることがほとんど。でも、先日、子供たちにマジックをみせたときは、一組のトランプを1人にあげるのではなく、一枚ずつバラで全員に渡すことにした。そうすれば、選ばれた子供だけが優越感にひたり、他の子供たちはガッカリするという、社会では当たり前の不条理な出来事を、まだ経験しないで済むと思ったからだ。
ほんの少しだけ時間があるときは、僕はトランプを材料に、キューブを作ってプレゼントする。子供たちは、たった6枚のトランプが美しい立体に、それもノリもテープも使わずに出来上がることを不思議そうに見ている。ただ、副作用として、周囲の大人たちも欲しがることがあるので、注意は必要。
あまり日本では知られていないけれど、西洋社会ではトランプは消耗品。少しでもカードに傷があればゲームがフェアでなくなってしまうのがその理由。一組で9個のキューブが作れる。そろそろ新しいトランプを買おうと思っているなら、ぜひお試しを。
前田知洋(まえだともひろ)
クロースアップ・マジシャン。1988年、東京電機大学工学部卒業。卒業研究論文は人工知能。100以上のテレビ番組に出演。海外での出演も多く、チャールズ皇太子もメンバーの英国マジックサークルのゴールドスターメンバー。「Hanako」(マガジンハウス)で人生相談、「ナンプレファン」(世界文化社)でコラム「日常の暗号」を連載。現在は建築誌「モダンリビング」(アシェット婦人画報社)でエッセイを連載中。主な著書に「知的な距離感」(かんき出版)、「人を動かす秘密の言葉」(日本実業社出版)など。公式サイトへのリンク
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