07 Take it easy Go with the flow of h3m

logo_green75.png

デジタル時代の人やモノの距離感 ブログよりもややフォーマル、原稿にするには個人的なこと

take it easy,go with the flow. #007



映画スターが自分の作品を観ない理由

 2003年にカンヌ映画祭の取材をした際、クリント・イーストウッド監督の『ミスティック・リバー』が公式上映された。魂が揺さぶられるような作品だった。心躍らせて記者会見場に臨んだが、イーストウッド監督は「僕はまだこの映画を観ていない」と言ってジャーナリストらを煙に巻いた。
 イーストウッド監督はいつも馴染みのスタッフと映画を撮っているそうだ。だから、現場は成熟した雰囲気に満ちているという。撮影も何度も撮り直したりすることなく、1、2回のテイクで終わってしまうそうだ。
制作スタッフを信頼しているとはいえ、自分が監督した作品を観ないのはどういうわけか。『ミスティック・リバー』の場合、テーマが重苦しく、映画を観ることで暗く悲しい物語を追体験することになる。撮影現場でとことん作品と向き合った後で、それ以上、許容できないといったところか。
 一方、監督ではなく、映画スターが自分の出演作品を観ないという場合、事情は異なるようだ。例えば、ジョニー・デップは自分の映画を殆ど観ていないと公言しているが、本人曰く、「自分を観るのは不快。映画を作るプロセスを体験したら、そこで僕の仕事は終わり。その後は僕が拘ることではない」。確か『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソンも、自分の映画を観ていないと雑誌のインタビュ―で語っていたように思う。
 嘗ての私は、完成した自分の作品を観ないアーティストがいたら、無責任だと思っただろう。しかし、自分自身が他人の作品や番組に出演するようになってから、ジョニデの気持ちが分かるようになった。
 映画、テレビ、ラジオ等、商業的作品の出演者がその内容やクオリティをコントロールすることは殆どできない。とりわけ多くの人が拘っている場合、ディレクターだけでなく、プロデューサーやスポンサー等々、作品の運命は多くの人の手に委ねられる。たとえ出演者がこんな自分を見せたいと思っていても、予想を裏切る形で加工・編集されたりする。演者は単なる素材に過ぎないことが多い。
 だから、演者がアーティストやクリエイターでもある場合、作品に対する思い入れやイメージを抱けば抱くほど、実際の仕上がった作品に戸惑うことが多いだろう。そこまでいかなくても、自分が表現したいことと自分に対して求められているものとのギャップを知った時、結局、その作品は自分のものではなかったことをまざまざと思い知るのだ。
 世間の人は、大スターであれば、出演作品や仕事内容を自由に選べると思っているかもしれないが、私は寧ろ逆だと思っている。名声は多くの人の支えなしに築き上げ、維持することはできない。ハリー・ポッター・シリーズでハーマイオニーを演じたエマ・ワトソンも「これまで自分の人生をコントロールすることなど全くできなかった」と言っている。
 最近、私はあるハリウッド超大作にエキストラとして参加した。エキストラといっても台詞のない役柄を与えられたようなもので、5月からの3ヶ月間、毎週のようにロンドン郊外の撮影現場に通った。公開が来年暮れなので、今はそれ以上、書くことを差し控えるが、こちらについては何の期待も持ち合わせていない分、精神的ストレスは殆どない。寧ろ、自分がこの特殊な映画の素材として、どのように料理されているのかを観るのが非常に楽しみである。

テキスト:RICA
日本と米国で教育政策を学び、東京で文化交流の仕事に携わった後、99年渡英。執筆、経営、映画という3つの分野で活動中。今後はパリ(フランス)も新たな活動拠点に加わる予定。

このエントリーをはてなブックマークに追加   RSS

HOME > Rica's_column > 07 Take it easy Go with the flow SPECIAL FEATURE
kuroda_banner01.png
h3mインタビュー
sakai_small01.png
トピックス
マジシャンの身体のシセイとか… NEW
マジシャンに限らず、立ち姿がステキに見えることはきっと大切なはず。それを身につけるこ…続きを読む
読書は人生の海をわたる船の錨
「活字離れ」といわれて久しいですが、ここでいう活字とは書籍のこと。ネット情報に押されて、…続きを読む
汝、キッズマジックを侮るなかれ
「キッズマジック」は子供がやるマジックではなく、子供に見せるマジックのこと。「子供に…続きを読む
オリジナルのマジック創作って
どういうこと?
ディスカッションの第二段です。今回のテーマは「マジックの創作について」。…続きを読む
カードキューブ
トランプはデザインとして優れていることが多い。そのうえ、運命や駆け引きのゲームなどに使われる…続きを読む
Rica's Column #010
前回のコラムを書きながら、昨年の夏、日本で観たある芝居を思い出した。
80年代、私がいた…続きを読む
レオナルド先生は…
スゴく有名なドローイング(素描)にレオナルド・ダヴィンチの「ウィトルウィウス人体像」がある。…続きを読む
クローゼットの話
ボクの場合は、仕事柄、スーツは必須アイテムになる。だから、家を買ったときに少し広めのウォーク…続きを読む
お互いの人生 social
友人のリチャードと、そのリチャードの友人と鎌倉に遊びにいった。ボクらが行くコースはいつも…続きを読む
P1020505_3.jpg
椅子の距離感 mind
「安楽椅子探偵」とは、ほとんど現場に赴くことなく椅子に座ったまま推理する探偵を指します。…続きを読む