デジタルな距離感 このサイトをはじめた理由
最近、他人との距離感がつかみにくい。たとえば、仕事中に電話があり、キーボードを打つ手を止めて受話器を取ると「カニ、買いませんか?」とたずねられる。電話を切ってコンピュータの画面に戻ると、突然メールで「私も好きです」なんてラブレターが着信する(最初はいたずらかスパムメールかと思った)。新刊を出版したときはメールで「原稿料いくらですか。教えてください。」なんて、ツイートみたいな1行だけの内容。もちろん、発信者の名前もない。たぶん、差出人は子供だろうと思って放っておいた。数日後に同じアドレスから少し長文(4行くらい)のメールが送られてきて、発信者が立派な大人だとわかって、またビックリした。かと思えば、中学生から「いつもご活躍を拝見しています(中略)ご本の一部を文化祭の発表で使わせていただきたいのですが、ご許可をいただければ…」なんて便せん2枚に手書きの封書が出版社経由で転送され、ものすごく感心した(と同時に「子供は礼儀知らずだと勝手に誤解していて、すいません」と封筒に向かって謝った)。
友人や知人に聞くと、そんな経験をする人は意外に多い。誰かと距離感がとりにくくなったのは、いろいろな原因があるだろう。僕は、その一つをコミニュケーションのチャンネルが増えたからだと思っている。固定電話に、携帯電話、携帯メール、インターネットメール、それも仕事用とプライベート用のアドレスを使い分けるもの当たり前になった。ネットユーザーの4人に1人が4〜6個のメールアドレスを持っているらしい*1。さらにブログにツイッター、FaceBookなど、どんどん増えている。僕は工学部電気通信工学科学士という、やたら画数の多い肩書きをもっている(少なくとも卒業証書にはそう書いてあった)が、昨今のデジタル・コミニュケーションについて検索すると、それだけで目がグルグルする。
だから、「デジタルな距離感について考えるトピックスを扱ったら面白いかも……」と、ずっと考えていた。サイトの名前の「h3m」は、半径3メートル(Hankei 3 Metoru)の頭文字から決めた。アバウトだけれど、自分の半径3メートル以内で起きたことを、上からでもなく下からでもない目線で、3メートルくらい先の人に普通に伝えていく。ちょうどYouTubeによく投稿されている子供やペットを撮影したホームビデオみたいな感じ。
トピックによっては、3メートルの距離をこえる話題になるかもしれない(たとえば、ライオンについて取材することがあったら、そんなに近づくのも怖いし、動物だけでなく危険なモノ、怖い人もいると思う……)。それでも、「きっと楽しいはず」と思っているのは、もしかしたら僕だけかもしれない。けれど、少しずつでも面白がってくれる人が増えることを願って、このサイトをはじめることにした。
「デジタル時代の人やモノの距離感」をテーマに、ライフスタイルなど、どんなことも、physicalフィジカル、 mindマインド、 socialソシアル、 privateプライベートなど、4つのカテゴリーにザックリと分類して、週に1度くらいのペースで更新してくことを予定しています。ブックマークに追加していただき、ときどきトピックスの見出しだけでもチェックしていただければ、とても幸せです。
前田知洋(まえだともひろ)
クロースアップ・マジシャン。1988年、東京電機大学工学部卒業。卒業研究論文は人工知能。100以上のテレビ番組に出演。海外での出演も多く、チャールズ皇太子もメンバーの英国マジックサークルのゴールドスターメンバー。「Hanako」(マガジンハウス)で人生相談、「ナンプレファン」(世界文化社)でコラム「日常の暗号」を連載。現在は建築誌「モダンリビング」(アシェット婦人画報社)でエッセイを連載中。主な著書に「知的な距離感」(かんき出版)、「人を動かす秘密の言葉」(日本実業社出版)など。公式サイトへのリンク
*1 2009年 goo サイト調べ