ディスカッション5 of h3m

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デジタル時代の人やモノの距離感 ブログよりもややフォーマル、原稿にするには個人的なこと

読書は、人生という海をわたる船の錨になる

books05.jpgディスカッションの第4回目です。今回のテーマは「読書」について。

参加者は、お酒と理屈、ドライブが大好きな介護福祉士、幼稚園教諭の経験をもつ雲水(♀)さん、子供たちにマジックを指導することも多い治療家の鍛治中 政男さん、多くのマジックの書籍を翻訳、出版し、マジックに造詣の深い角矢 幸繁さん、そしてクロースアップマジシャンの前田 知洋です。本を読んで、内容を自分の血肉にするには、どうしたらいいのでしょうか?
(このノートはFacebookグループでディスカッションを再構成したものです)

Photo: Luc Viatour

「おススメの本はありますか。」と聞かれたら?

186120_100000000193084_417986_n.jpg前田知洋 よく受ける「おススメの本を教えてください」というリクエスト。これって結構難しいんですよね。もちろん、マジックの本だったり、そうでなかったりするんですが、質問をくれる人が、どれくらいのマジックの経験があるか、読解力があるか…、それがわからないと、なかなか勧めにくい。
今日は、1冊の本をどう選んだらいいか? ってことから始めたいと思っていますが…。


173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 幸繁 まず、最初に逆質問をします。
(1)マジックを始めてどれくらいか?
(2)どんなマジックが好きか?
(3)マジックを人前で演じるのが好きか? 
この3つの逆質問を聞いた答えによってどの本を紹介するか決めます。


186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 3)がおもしろいですね。中には、演じるのが苦手って人もいるんですか?


173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 演じるのが苦手な方も一定数いらっしゃるので、なるべく失敗する確率の低い作品が解説されている本を紹介するようにします。演じるプレッシャーを少しでも減らすためです。


556513_197711150342062_100003095347883_336990_1241504321_n.jpg鍛治中 政男 流石、ケアが行き届いてますね。
私も角矢さんの質問内容とほぼ同じことを聞いて判断材料にしているんですが、もうひとつ必ず付け加えているのが「何ページくらいの本がいい?」という質問です。ページ数でピンとこないようなら指で本の厚みを示してもらいます。あまり重厚な本だと途中で挫折してしまうかもしれません。オススメする以上、その本は出来るだけ最後まで読みきって欲しいですから。


186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 おもしろい!肉屋さんと同じですね何グラムにしますか?みたいな…(笑)それは親切ですね。



173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 これは目からウロコです!



yukari.jpg雲水 私は趣味でお菓子を作るのですが、「おススメの本は?」とリクエストされると、お菓子を作る目的と作った菓子の種類を聞きます。例えば、女子が彼氏のために作るとか、男子が彼女の誕生日ケーキを作りたいとか、その人が何をしたいのかで変わる。何を作ったかを聞くのは、その人の技量がそこでわかるからですね。


186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 うぁ!それは切実!



556513_197711150342062_100003095347883_336990_1241504321_n.jpg鍛治中 ああ、ウチの娘もいずれ・・・(笑)。



yukari.jpg雲水 なかには、初心者なのに物凄く難しいお菓子を作りたいと、分不相応なことを言い出す人もいる。そんなときは、簡単でも見栄えがいいお菓子を教えます。美味しく食べる事が出来るというのが第一ですから、失敗したら元も子もない。
でも、大抵はそういうアドバイスは聞き入れてもらいにくいですよね。何故なら、難しくても自分は出来るかも?と思ってるんです。彼氏、彼女のためという部分もありますが、7割以上は自己満足な部分もあると感じますよね。高い材料とか根性で自分の未熟な技術を埋めることができると思っちゃうんですよね。

173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 なんか、マジックの世界と似ている感じが…(笑)
じつは、良いマジシャンは良い料理人であることが多いんです。ロベルト・ジョビーはイタリアンの名手ですし、私の先生ジェイミーは和食を作りますし、ニューヨークのトッド・ロビンスはニューヨークチーズケーキの名手だったりするんです。
186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 それは面白い!マジックの本もお菓子も本も、「読んで終わり」ではなく、その先に実践が待っている。
ところで、角矢さんは「読書会」を開催してらっしゃいますよね。

173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 私が読書会を始めた理由は、まず「良い本を紹介して欲しい」という要望が多かったこと、本の書き手として本の読み方を知って欲しかったこと、自分で消化した本の内容を自分のためにまとめたかったこと、の3点がありました。
 私の読書会は、私が好きな本を1冊取り上げて、その本をメンバーの皆さんに期日までに読んでいただく。私がその本がどういう事を述べているのか、そのバックグラウンドを解説しつつ実演も交えつつ、その本を読んだ感想を語り合うのです。参加されている方も、高校生から50歳代の幅広い年齢層で、いろいろな意見が出て、非常に深い内容になります。

556513_197711150342062_100003095347883_336990_1241504321_n.jpg鍛治中 前回は私もオンラインで参加させていただいたんですが、とても勉強になりました。何故、読書が必要なのか?に始まり行間の読み方など的を得たお話ばかりでとても良い刺激を受けました。

186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 それは、素敵な集まりですね。誰でも参加できるんですか?



173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 招待制なんです。



186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 ところで、良書を見分けるコツとかありますか?



173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 私は「まえがき」を読むことにしています。ちゃんとした本の場合、何故この本を書いたか、この本はどういう思想で書いたのかということがしっかり書かれています。
もちろん、それっぽいまえがきがあっても悪書というものは存在するのですが、大体カッコつけていたり論理破綻を起こしているので徐々に分かってきますね。
186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 まえがきに「なぜこれを書いたのか?」「なにが書いてあるのか?」「先人の名が尊敬をこめられて上げられている」が書かれていることが大事と…。
556513_197711150342062_100003095347883_336990_1241504321_n.jpg鍛治中 私は本のページをパラパラとめくって文字が詰め込まれ過ぎていない、つまり余白がバランスよく取れているかどうかをチェックします。良書には必ず適度な「遊び」があります。そして文章における「遊び」の部分は余白に表れていると思うんです。文字がギュウギュウに詰め込まれた「遊び」の無い本はあまり読む気がしません。

186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 『週刊ブックレビュー』という番組に出たとき、「手間のかかった品の良い装丁は良書が多い」という話をしたことがあって、装丁を見ると、少なくとも出版社や担当者の意気込みがわかる。

556513_197711150342062_100003095347883_336990_1241504321_n.jpg鍛治中 私も手に取った本はついカバーを外してみたくなりますね。



yukari.jpg雲水 私が小学生の頃の図書室の司書さんが教えてくれた言葉があって、「沢山本を読みなさいね。それは、これからのあなたの人生の海をわたる船の錨になる。どんなに荒波が来ても流されず、行きたい方向に行く力になるからね」と言ってくれたんです。凄く心に残っています。
まずは、量を読まないと良いか悪いかの判断ができないんじゃないかな?と思います。

186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 問いは「1冊の本をどう選んだらいいか?」ではなく、「最初の100冊をどう読んだらいいか?」が正しいと。


マジックの本って、どう読んだらいいの?

186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 読書会では、どんなことを気にかけてますか?



173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 まずは「愚直に読む」ということを伝えるようにしています。


186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 「愚直」というと…?



173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 技術書全体に言えると思うのですが、ちょっと慣れてきますとすぐに自分の考えを入れて、そのテキスト通りにしないんですよ。

まずはそこに書いてある通りを忠実に再現をするんです。そして、その作者が何故こうしたのかを考えるんですね。そうすると、その人が何を考えてその作品を作ったのかが段々分かってくる。これが出発点だと思うのです。
186120_100000000193084_417986_n.jpg前田
きっと角矢さんが心配するように、知らずに改案を改悪にしてしまうような、落とし穴も多いと思うのです。じつは、変えたらいい、変えてはいけないという行動規範は、観客に評価されなかったときに生きてくる助言だと思うのです。だから、そこには「いつから、いつまで」という時制が入るといいですね。いつになったら自分の血肉になるというか…。

173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 これは古典作品では、とくにいえることだと思うのですが、
私は改案をする場合、実演回数が50回というのを目途にしています。1回ずつ、どこが受けない、ここが受ける、これは滑らかに出来ない、とメモに書きとめているんです。50回くらい実演しますと演技が固まってきます。そこで自分の考えを入れてみて、さらに実演を繰り返して、原案よりウケる、ウケないなどを参考に、良い改案かどうかを見極めるようにしています。

yukari.jpg雲水 お菓子作りでも同じです。レシピ通りにケーキを作れない人っているんですよ。レシピ通りにやってる!と言いながらレシピを一行飛ばしていたり、「良く混ぜます」と書いてあっても1~2回混ぜただけで「良く混ぜた」と結局スポンジが膨らまない。それを「レシピが悪い!」と言いきっちゃう(笑)

186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 え〜!それは、ひどい。


173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 最近、本をどれだけ早く読んだか、沢山読んだかを競うような風潮があります。しかし、その作者が何を考え、何を伝えたいのかを考えずに活字を目で追っかけてもまったく意味がない。量と早さを追っかけると、必ず読み飛ばしが発生します。すると、誰かからマジックを見せられて、それはどこに載ってるの?と聞いたらすでに自分が読んでいた本に載っているなんて哀しい結果になるだけです。
まず、「本は精読するもの、愚直に読むもの」という意識付けをすることが大事なのではないでしょうか?

556513_197711150342062_100003095347883_336990_1241504321_n.jpg鍛治中 最近はインターネット通販で自宅にいながら簡単に本が購入できる便利な時代ですが、私はやむを得ない理由を除いては出来るだけ書店に足を運んで実際に本を手に取ってみてから買うように心がけています。やはり本とちゃんと対面した方が、良書と出会える確率は格段に上がるような気がするんですよね。

186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 沢庵和尚が柳生宗矩に贈ったとされる『不動智神妙碌』の「理(り)の修行と事(じ)の修行(理論の探求と実践の鍛錬)は、車の両輪」のとおりかと。
その「理(り)の修行」、道理を身につけることは、マジックにしても、読書にしても、発信側と受信側の間に科学反応がおきるかどうか?にかかっていると思います。その化学反応から生まれたモノが社会や文化を推し進めていく、そんなことが読書だと思うのです。

「ディスカッション」特選、マジック以外のおススメの本

スクリーンショット 2012-07-24 1.52.40.png186120_100000000193084_417986_n.jpgムーミン谷の夏祭り』トーベ ヤンソン著
子供向けの童話でありながら、ボクが高校生の頃に読んだトーベ・ヤンソンの「ムーミン谷の夏祭り」。アメリカでもMITの学生たちの間で流行していたぐらいなので、きっと大人にとっても共感できる部分も多いはず。個人主義的で、ある意味、自分勝手な(笑)登場人物の幸せ模様が描かれています。閉塞感のある現代社会だからこそ、とくにおすすめです。(前田)



978-4-591-08967-5.jpg173341_100002003532750_5635760_n.jpg『落語と私』桂 米朝著
中高生向けに書かれた落語の入門書なんですが、入門書どころか落語の本質がズバリと語られています。人と社会、人と人の関わりあいなんですよね。小沢昭一さんが仰っているようにすべての「芸能実演家にとっても必読」というのが分かったのはかなり後でした。名人が語る芸の蘊奥は今も読み返すたびにワクワクします。語り口が非常に分かりやすいので、すべてのお笑い好きな方、演芸好きな方におススメします。角矢 )

フレッド.jpgyukari.jpgフレッドウォード氏のアヒル』牛島 慶子著
人を愛するということ、思いやる事などを学びながら成長していく不器用な主人公の姿にどなたも感情移入できると思います。絵が繊細で世界観が素敵です。男性も楽しめる少女漫画です。
話のテンポも良く、ギャグもありながら、意外と身につまされる話があったりするので侮れません。まずは何も考えずお読みください。(雲水)

jazz.jpg556513_197711150342062_100003095347883_336990_1241504321_n.jpgジャズストーリィ―ルイとビリーとレスターと』笹尾 俊一著
この本は言ってみればジャズ絵本です。ジャズの発祥から有名なルイ・アームストロングやビリー・ホリディ、レスター・ヤングの生涯を味のある洒落た手書きイラストとともに物語風に紹介した本です。紙面構成のセンスがとても良く、読んでいて楽しいので自然とジャズの世界に惹き込まれていきます。1900年代中期の所謂ボードビル・スタイルのクラシック・マジックとニューオリンズやシカゴ・ジャズの生演奏は切っても切れない密接な関係でしたので、ジャズを知ることで当時のクラシック・マジックの雰囲気が感じ取れるかもしれません。(鍛治中)


コミュニケーション

「活字離れ」といわれて久しいですが、ここでいう活字とは書籍のこと。ネット情報に押されて、人々は本を読まなくなっているといわれます。そして、そこからさらに踏み込んで、ただ読めばいいというのも少し違うのでは…、なんてことをディスカッションしてみました。
1つの投稿が140字に限られ、多くの人が出入りするツイッターでは、そんなディスカッションは難しいはず。ツイッターの創始者のジャック・ドーシーは、そんなふうに議論になりにくいように140字に設計した、なんて話すらあります。そこで、今回もfacebookのグループ機能を使い、とりあえず、住んでいる場所も職業もバラバラの4人ではじめてみることにしました。共通点は「マジック、ラブなこと」。

前田 知洋

186120_100000000193084_417986_n.jpg前田 知洋(まえだ ともひろ)クロースアップ・マジシャン。100以上のテレビ番組やTVCMに出演。歴代の総理大臣をはじめ財界人にマジックを披露。英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle London のゴールドスターメンバー。著書に『知的な距離感』(かんき出版)『人を動かす魔法のことば』(日本実業社出版)『新入社員に送る一冊』共著(日本経団連出版)ほか。このサイト、h3mのパブリッシャー。

鍛治中 政男

556513_197711150342062_100003095347883_336990_1241504321_n.jpg鍛治中政男(かじなか まさお)治療家。広島で治療家として城山整骨院を経営しているかたわら、「キッズショウ」で定期的に子供たちにマジックの披露や指導をおこなっている。パフォーマー(演技者)の姿勢や骨格バランスのケアに関して考察するなど、マジックと身体の関連性を日々研究している。

角矢 幸繁

173341_100002003532750_5635760_n.jpg角矢 幸繁(かどや ゆきしげ)翻訳家。『ロン・ウィルソン プロフェッショナルマジック』『デレック・ディングル・カ-ドマジック』『大魔法使いアラカザ-ルマジックの秘密』『ジェイミ-・イアン・スイスのクロ-スアップ・マジック』など、数々の名著を翻訳したほか、著作『英語でペラペラマジック』も執筆。ブログ「Better Late Than Never」ではマジック関連の話を優しく、そして熱く解説。
現在タマリッツの名著『BEWICHED MUSIC I. SONATA』を翻訳中。

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雲水(♀)

yukari.jpg雲水(♀)(うんすい)お酒と理屈、ドライブが大好き。介護福祉士、幼稚園教諭の経験をもつ。趣味のお菓子作りはプロ級の腕前とのウワサ。本名、顔写真、年齢、ぜんぶ非公開。