オリジナルのマジック創作って、どういうこと?
マジックは1日にしてならず
ディスカッションの第二回目です。今回のテーマは「マジックの創作について」。参加者は前回同様、子供たちにマジックを指導することも多い治療家の鍛治中 政男さん、多くのマジックの書籍を翻訳、出版し、マジックに造詣の深い角矢 幸繁さん、そしてクロースアップマジシャンの前田 知洋です。ジェイサンキー『センセーショナルなクロースアップマジック』の出版記念もかねているので、最後にチョコっと宣伝もありますが、何卒ご容赦のほどを(このノートはFacebookグループでディスカッションを再構成したものです)
マジックの創作をしますか?
前田知洋 鍛治中さんや角矢さん、ってマジックの創作をしますか?
鍛治中 政男 私の場合は厳密にはオリジナルというよりは他者の作品、主にクラシック作品のバリエーションとしてアレンジするスタイルが多いんです。
角矢 幸繁 私の場合も、いわゆる「ユニーク」なオリジナル作品というよりは、古典的な作品を自分の好みに合うようにアレンジすることが多いです。
前田 僕はテレビでアンビシャスカードばっかりやってるので、創作してないと思われているんですが、意外にあるんです(笑)
角矢 80年代の終わりから90年代の初頭、Genii誌に掲載された前田さんの創作作品を筆頭に、日本の風変わりな作品がいろいろ発表されていたのを羨ましく読んでいましたよ!
前田 ありがとうございます。僕が20代の頃には、日本の若いマジシャンたちがGENIIや箱根のマジックコンベンションに創作を発表するという環境があり、そんなチャンスをあたえてくれる人たちがいた。そのときに発表したトリックは上出来ってわけでもないんですが、海外の専門誌には21の作品を寄稿しました。
『GENII』1936年にアメリカで創刊されたマジック専門誌。業界誌の中でも歴史と権威を誇る。
鍛治中 私が他者の作品をアレンジするときは何が気に入らないからというわけではなく、あくまでも自分のスタイルにフィットさせる目的でおこなってます。スタイルが違うのでセリフや演出は勿論、使用する技法や手順も微妙に変えていきます。ときには原型を留めないこともありますけど・・・あ、それでもクレジットはちゃんと明確にしてますよ(笑)
角矢 私は天の邪鬼で、誰もが演じている作品を誰もが演じるように演じたくないと思うんです。現状として、同じマジックを違う人が演じている状況と言うのが何ともコモディティ化を感じる。なので、自分のキャラクターに沿った方向性で、自分が面白いかなぁと思った演技になるようにブラッシュアップしていく感じですかね。
前田 それは、天の邪鬼じゃなく、表現者としてごく自然な欲求かと…。世に出るのであれば、ユニークさにこそ、存在の価値があるのではないでしょうか。僕のマジックのスタートは、マジックのコンベンションなので「他人のマジック」と明らかに違わないといけなかった。でも、オリジナル重視主義みたいなモノにも反感をもってました。
角矢 90年代初頭にユニークな作品を数々発表されていた前田さんが「オリジナル重視主義」に反感を感じていらっしゃったと言う事実に衝撃をうけています。
前田 そのときは、パフォーマンス・スキル(演技の技量)とクリィエイティブ・スキル(作品の創造性)って、わけて考えるべきだと思っていたんです。僕にとってはパフォーマンスのスキルのほうが重要だと思っていたので…。
どんなマジックを創りたいですか?
前田 こんなマジックを作ってみたいという作品ありますか?
鍛治中 私が一番好きなのは石田天海さんのフライング・クイーンなんです。いつかあんな素晴らしい作品を作ってみたいなぁと思っています。
前田 それはすごい!天海さんというチョイスがすごい。とても良い趣味をしてると思います。天海さんの、どんなところ魅力を感じますか?
鍛治中 日本人として初めて世界に通用する技術とショーマンシップを兼ね備えていて、その二つのバランスが非常に取れていたマジシャンだったと思うんです。
石田天海(1889~1972):1924年に渡米後、その高等技術と素晴らしい演技で世界中から賞賛された。
鍛治中 私の演技中の表情の作り方や演技全体を通しての笑顔って、実は石田天海さんからの影響を強く受けているんです。
角矢 天海さんの技術も凄いのですが、あの笑顔が演技をさらに引きたてていますよね!
前田 近くの人から影響をうけるのではなく、天海さんという時間的に離れている先人から影響をうけるというのが素晴らしいと思います。
じつは僕がやる、「カードがお客さんの手の中で繋がるときのオマジナイ」って、映画『ファンタジア』の中の「魔法使いの弟子」のミッキーマウスのゼスチャーが元になっているんです(笑)
『ファンタジア』(原題:Fantasia)1940年にディズニーが製作したアニメーション映画。世界初のステレオ音声作品でもある。
前田 僕は「マジックからマジックを創る」って、「料理から料理を作る」みたいな違和感があって、やはり、「料理は材料から作られるのが自然」だと思うんです。鍛治中さんのように優れた作法や精神は取り入れるべき。しかし、作品そのモノを真似るべきではない気がしています。
角矢 これは実は大変な話だと思うんですよね。いつの頃からか日本に「オリジナル重視主義」というものがはびこりだして、近視眼的に作品を取り上げてちょっと手を加えただけで「オリジナル」が完成するような錯覚を生む言論が増えました。 あまり好きな言葉ではないのですが、最近流行りの「パクる」とかその類義語としての「インスパイアする」という行為を簡単に考えすぎているのではないでしょうか?本来なら、元々の原案の大切なエッセンスを上手く抽出する技術の事を「インスパイアする」と言うのではないかと思っています。で、そこには必ず原作者や原案への敬意が含まれていると思うんです。
最近よく耳にする「この作品にインスパイアされました」という言葉は、「あなたのやってることをそのままやってます」という行為への自己弁護に聞こえることが多くて、なんか居心地が悪いんですよ。
前田 隣の人から言葉やトリックをパクるとすぐにバレるってことですよね(笑)カパーフィールドのマジックアドバイザーをしてるクリス・ケナーは、角矢さんのいうエッセンスをフォーミュラー(方式、公式)って呼んでますよね。
角矢 私がいつも心がけている3原則があります。ダーウィン・オーティスの3原則: もし一般的なプロットの改案を発表したかったら、現象、方法、演出のいずれかを改良したり強化していなければ認めない。
この3原則は、この「オリジナル重視主義」という病を治すための一種のカンフル剤だと思っています。
ダーウィン・オーティス(1948~):ニューヨーク在住のプロマジシャン。ギャンブラーのテクニックに精通していることで有名。
鍛治中 とても明確で分かりやすいですね。
角矢 著名な研究家の方でさえも「ちょっとオリジナルを考えた」とか、多くの愛好家の方が様々なSNSで「オリジナルです」と軽く書かれてしまっています。本来は、この3原則を満たそうと思えば、そんな軽々しく言ったり、発表したくなるとは思えないんですよね。